「今日から自由貿易を「無防備主義」と呼ぼう!」From 佐藤健志

 

富国と強兵: 地政経済学序説

富国と強兵: 地政経済学序説

 

 

大著『富国と強兵』をこのたび刊行した中野剛志さんは、

2011年の著書『TPP亡国論』の巻末にこう記しました。

戦後日本の歴史において、
政府が強く推進し、
産業界が全面的に賛成し、
大手新聞やテレビがこぞって支持し、
アメリカが背後にいる政策をひっくり返したという例を、
私は知りません。
(252ページ)

まことにごもっとも。
し・か・し。

「億万長者の発想」というツイッターアカウントは
11月21日、こうツイートしています。

あきらめるな。
奇跡的な出来事というやつは
往々にして、
もう本当にダメだと思ったときに起きる。
https://twitter.com/IntThings/status/800769890550484993

で、そうなったんですね。

アメリカ次期大統領ドナルド・トランプ
ちょうどこの日、
TPP離脱の方針に変わりはないことをビデオメッセージで宣言!

翌日にはホワイトハウス
オバマ現大統領の任期中のTPP批准を断念したと、公式に発表します。

アメリカが批准しないかぎりTPPは発効しませんから、
世を騒がせたこの協定も、ほぼ完全につぶれました。

・・・とはいえ、これは中野さんが間違っていたということではありません。

冒頭の引用を読み返していただければ分かるように
「ひっくり返した」の主語として
中野さんが想定しているのは
日本(人)なのです。

しかるにTPPをめぐる顛末は
〈トランプがちゃぶ台返しをやってくれたからひっくり返った〉
というだけの話。
日本(人)の主体性とはまるで関係ありません。

それどころか、われらが安倍総理
TPPがもはや死に体であることを
どうしても認めたくないご様子。

トランプのビデオメッセージが出たり、
ホワイトハウスが公式発表を行ったりした後も、
「他国に影響されたり、他国に追従したりするのではなく、
日本として理念を掲げ、貫く信念がなくてはならない。
今、ぶれてはならない」
などと、国会で熱弁を振るいました。

そして12月9日には、TPP承認案と関連法案をついに成立させる。
アメリカにも、引き続き批准を働きかける方針だそうです。
http://mainichi.jp/articles/20161210/ddm/001/020/140000c

主体性をもって国の方向性を決め、安易にブレないこと自体は
まことに立派な姿勢ですよ。

し・か・し!

みなさんご存じのように
自民党はもともと、TPPに反対していました。

「ウソつかない。
TPP断固反対。
ブレない」

そんなスローガンを大書したポスターまでつくっていたのです。
http://saigaijyouhou.com/blog-entry-7397.html(画像つき)

つまりはTPP参加自体が
日本として理念を掲げ、貫く信念を持つことができないまま
アメリカ(オバマ政権)に影響され、ブレまくって追従した結果のこと。

で、なんで今になって
「TPPを批准することこそ
外国の影響を受けたり、外国に追従したりせず
日本として理念を掲げ、貫く信念を持つことだ!」
という話になるんですかね??

ヾ(℃゜)々(O_O)そこまでブーメランを投げんでも・・・(O_O)(゜ロ)ギョェ

トランプのビデオメッセージによって、
総理はメンツをみごとにつぶされましたから
腹を立てて意固地になっているということはあるでしょう。

ただし11月17日、トランプと会見したあげく
「信頼できる指導者と確信した」
とまで語ったのは当の安倍総理
じつのところ、自分で墓穴を掘った感が濃厚なのです。
おのれの見識、ないしその欠如について
まず反省したほうがいいかも知れません。

けれども経済政策の見通しが狂い、
外交でも番狂わせにぶつかったあげく、
どうにか収拾できたと思ったとたん、
メンツをつぶされて意固地になった人間が
自分の見識の程度を振り返るだけの冷静さを持ちえたという例を、
私は知りません。
まあ、致し方ありませんね。

それはともかく・・・

三橋貴明さんは12月10日のブログで
TPPをめぐる顛末を「ストックホルム症候群」の視点から論じました。

ストックホルム症候群は精神医学用語。
誘拐や監禁などの被害者が、
犯人と長時間過ごしたせいで
相手にたいして同情、信頼、愛情などを抱き、
心理的に同一化することを指します。

同様、わが国も太平洋戦争でアメリカに打ち負かされたあげく
70年あまりの長期にわたって従属させられたせいで
アメリカにたいして同情、信頼、愛情などを抱き、
心理的に同一化してしまったのではないか。

同情、信頼、愛情などというと
ポジティブなイメージがあるものの、
これは被害者、ないし日本側の一方的な思い入れにすぎず、
犯人、もとへアメリカの関知するところではありません。
だからTPPのように、向こうからハシゴを外されるというか、裏切られることも起きる。

ところが心理的な同一化がすぎると、そのことすらも受け入れられない。
こうして犯人が「や~めた」と言っていることに
被害者のほうがこだわるという、奇妙な現象が起きます。

最初は抵抗していたはずのTPPにたいし、
いつの間にか固執しているわが国政府の姿勢は
まさにこれではないか? という次第。

またもや、まことにごもっとも。
けれどもここでは、ちょっと違う角度から考えてみましょう。

TPPをめぐる総理の発言には
保護主義の蔓延を阻止し、自由貿易を守る〉
という趣旨のフレーズが繰り返し登場します。

たとえば12月5日に行われた参議院TPP特別委員会の集中審議では
公明党佐々木さやか議員にたいして
「日本が今ここで(批准について)立ち止まってしまう、
あるいはTPPをやめてしまうということになれば、
まさに保護主義の台頭の前で、
拱手傍観(※)を世界がしていくことにつながっていく」
と発言。(カッコは引用者)

(※)きょうしゅぼうかん。手をこまねいて放置すること。
http://hoshutube.army.jp/archives/57675(動画)

他方、民進党桜井充議員にたいしては
自由貿易こそが世界の平和と繁栄に不可欠で、
時計の針を逆戻りさせてはならない」
と発言しています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161205-00000088-jij-pol

してみると、この協定にたいする総理のストックホルム症候群的な固執には
自由貿易」と
保護主義」という
二つの言葉の響きが影響しているのではないか?

〈自由〉はイメージがよろしい。
開放的で明朗、無限の可能性を感じさせます。

エドマンド・バークも『フランス革命省察』で、
高らかに自由を謳うことについて、こう語りました。

「そこには胸を熱くするものがある。
われわれは大きな心で寛大に行動するようになるし、
争いの場では勇気をかき立てられる」
(『新訳 フランス革命省察 「保守主義の父」かく語りき』、307ページ)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

となると、それに制限を加えようとする保護主義
閉鎖的で陰鬱、重苦しく抑圧的ということに。

のみならず「過保護」からの連想で
〈そんなことをしていると、経済や産業がひ弱になってしまう〉
といった印象が生じる恐れも強い。

自由貿易への固い決意を示し、
保護主義の蔓延を食い止めねばならない!
そう叫びたくなるのも、分からなくはないのです。

しかし自由貿易の「無限の可能性」が、
実際に意味するのはずばりこれ。

(`ヘ´) (O_O)!!多国籍企業のやりたい放題!!(O_O) (゜◇゜)ガーン

それに制限を加えることで
国家および国民の利益を守るというのは
しごく当たり前のことにすぎません。

そこで!
自由貿易」の語感の良さが
上記の認識を広める障害となっているのであれば
事柄の実態をより的確に表す言葉に変更することを提唱します。

どんな言葉に変更するのか?
無防備主義(NON-PROTECTIONISM)」。

「保護」の反対概念を「自由」にすること自体、
完全に的外れとまでは言わないまでも
どこかズレているのですよ。

自国の市場、あるいは国民経済を守ろうとする姿勢を示さないのですから
無防備」の方がよほどふさわしい。
そして「保護」か「無防備」かとなれば
保護の方がいいに決まっている。

みなさん、今日から自由貿易を「無防備主義」と呼ぼうではありませんか!

市場原理を愛する
多国籍企業の公正と信義に信頼するだけでは不十分だ!!
国民経済を守る固い決意を示し、
無防備主義の蔓延を食い止めねばならない!!!

こう高らかに宣言してこそ
真に愛国的な政治家と言えるでしょう。
ではでは♪

 

富国と強兵: 地政経済学序説

富国と強兵: 地政経済学序説

 

 


佐藤健志からのお知らせ>
1)私が出演した日本文化チャンネル桜の番組「闘論!倒論!討論!」の動画が公開されました。

テーマ:国のために死ぬこと~再考 大東亜戦争
https://www.youtube.com/watch?v=rFoRbxH-bak

2)12月16日発売の『表現者』70号(MXエンターテインメント)に、評論「少女は歴史に筋を通せるか」が掲載されます。

3)アメリカにたいする「ストックホルム症候群」から自由にならないかぎり、戦後脱却は物事をさらに悪くするだけかも知れません。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

4)アメリカへの心理的同一化を抱えたまま、日本人として「保守」や「愛国」を唱えるとどうなるか、という点をめぐる体系的分析です。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

5)思えばわが国の戦後史そのものが、「アメリカと心理的に同一化しつつ、日本人としてのアイデンティティを保つ」という無茶な目標に挑んだ歴史でした。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社
http://amzn.to/1lXtYQM

6)「執着ぶりのスゴさたるや、誰にも止められない時の歩みのごとくにして、すべてを飲み込まずにはおかない死の絶対性のごとし」(246~247ページ)
はて、トマス・ペインがTPPをめぐる総理の発言を知っているはずはないのですが・・・

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

7)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966