「安倍総理の三つの誤算」From 青木泰樹@京都大学レジリエンス実践ユニット・特任教授

12月も半ばとなり、今年も一年を振り返る時季になりました。

そこで今回は、私から見た「2016年日本経済の三大イベント」、
およびアベノミクスとの関連についてお話しします。

第一のハイライトは、本年6月、
「2017年4月からの消費税10%への
増税の延期が決まったこと」です。

2014年4月の消費増税第一波の悪影響を
引きずっている最中に、予定通り再増税
実施された場合、日本経済は壊滅的打撃を
被ると予想していましたので、とりあえず
虎口から脱した感があります。

しかし、廃止ではなく
2019年10月までの先送りですので、
懸念が完全に払しょくされたわけではありません。

財務省の財制審に集う経済学者を中心とする勢力は、
相変わらず、ありもしない財政不安を煽り、
国民経済を潰してでも財政均衡を達成しようと
目論んでいることを忘れてはなりません。

第二は
「リフレ派理論が社会実験によって
完全に否定されたこと」です。

私はこれまで、経済社会学的立場から、
教科書経済学の知識(純粋理論)を振りかざして
現実経済を論じることに警鐘を鳴らしてきました。

その一環として、「リフレ派理論もまた政策論の
理屈たりえない」と批判を続けてまいりました。

そして現実経済を前にした時に生じる様々な論理矛盾を指摘してきました。
このコラムでも今年は何度も取り上げました(たとえば下記参照)。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/category/aoki/page/10/
http://www.mitsuhashitakaaki.net/category/aoki/page/6/
http://www.mitsuhashitakaaki.net/category/aoki/page/4/
http://www.mitsuhashitakaaki.net/category/aoki/page/2/

リフレ派政策を掲げて黒田日銀が発足して三年半、
ベースマネーを280兆円増やしても日銀の目標とする
コアCPIは、前年同月比で8カ月連続のマイナス(10月現在)です。

誰が見ても明らかなように、
リフレ派理論は現実の前に潰(つい)えました。

変わり身のはやい黒田日銀総裁は、1月末の
マイナス金利導入によってリフレ派と一線を画し、
さらに9月の日銀総括において操作目標を
「量」から「長短金利」に変更し、
実質的にリフレ派理論と決別しました。

三橋さんも指摘しておられるように、
リフレ派の重鎮である浜田宏一内閣官房参与
「デフレは貨幣現象であると以前主張していたのは
事実であるが、学者として考え方が変わったことを
認めなければならない」と述べています。
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12223607647.html

このコラムの他の執筆者同様、私にとっても
リフレ派政策の破綻は予想通りの結果(論理的必然)
でしたので特段の驚きもありませんが、世間に
リフレ派理論の非現実性を知らしめたことは良かったと思います。

たとえ日銀総裁や権威ある経済学者の話であっても、
鵜呑みにしてはならないという戒(いまし)めとして。
「誰が言ったか」ではなく、「何を言ったか」が肝要なのです。

第三はビッグ・サプライズでした。
前回取り上げましたが「TPPの消滅」です。
旧民主党政権下でTPP交渉への参加問題が
取りざたされた当時、「聖域なき関税撤廃を
前提とする限りTPP交渉には参加しない」
ことを公約に政権の座に返り咲いた自民党でしたが、
政権復帰後は手のひらを返したように交渉参加に
前向きに転じ、なし崩し的に参加表明となりました。

その後は、譲歩に次ぐ譲歩を重ね、
「何としてでもTPP発効!」を安倍政権が
目標としてきたことは周知のとおりです。

TPPに関する議論の根底にあるのは、
グローバリズムナショナリズム」の対立です。

ナショナリズム経世済民の思想に連なるものです。
TPP論争は、いわばその代理戦争でありました。

しかし日本国内では反TPP運動、すなわち
「国家主権および民主主義を保持することは
グローバリズムより大切だ」という価値観に基づく
政治的ムーブメントは盛り上がりませんでした。

政権政党、財界、経済マスコミ、御用学者および
エコノミストといった圧倒的多数のエリート勢力が
TPP推進を叫び、「反TPPは時代遅れの保護主義だ」
との悪意あるレッテル張りが奏功したせいかもしれません。

結果的に日本のTPP批准は既定路線となり、
ナショナリズム派は、為す術もなく、
TPP発効後の将来の日本社会の被害をいかに
最小化するかを考えるしかありませんでした。

そこへ、トランプです。
神風がTPPを吹き飛ばしてくれました。
運不運は、人間だけでなく国家レベルでもあるものですね。

さて、私なりの本年の三大イベントを挙げてみましたが、
いずれを見ても国民経済にとって、日本国民の大多数に
とって好ましい結果をもたらすものでありました。

昨年来からの懸念事項が三つも解消したわけですから、
「今年、日本はツイテいた」とひとまず総括したいと思います。

しかし、物事には必ず表裏があります。
国民多数の幸運は、反面、少数の人たちに
とっては不運であったことでしょう。

消費税増税延期で苦汁をなめたのは、
財務省を中心とする緊縮財政派(財政均衡主義者たち)。

リフレ派論理の破たんでは、言うまでもなく、
岩田規久男日銀副総裁をはじめとするリフレ派。

TPP消滅で臍(ほぞ)を噛んだのは、
グローバル企業(資本)に連なる財界人、
新自由主義ネオリベラリズム)の信奉者、
そして経産省のTPP推進派。

おしなべて今年不運だったのは、
国民国家や社会の行く末を蔑(ないがしろ)にする
一部のエリート層でしたね。

ただ運不運と言っても、三大イベントは
不可抗力ではなく人為的に発生したものです。

もしも結果が逆で国民多数が被害を被ったとしたら、
それはまさしく人災でした。

その原因は何処にあるのでしょう。

それはまさしく為政者による不適切な経済政策の選択、
より根本的には誤った経済思想の選択にあるのです。
ケインズにならえば「為政者といえども過去の経済思想の奴隷」なのですから。

安倍総理の経済政策はアベノミクスとして
知られていますが、その内容は一貫しておりません。

政策の中身が変わってきています。

今回取り上げた三大イベントは、
その変遷と軌を一にしているのです。

初期アベノミクスは三本の矢で知られているように、
デフレ脱却のための大胆な金融緩和、
機動的な財政出動および成長戦略でした。

その成功のポイントは、財政再建論をひとまず
棚上げし積極的な財政出動に転じたこと、
金融緩和でその環境を整えたこと、および
新自由主義的な成長戦略は考えるだけで
具体的に実施しなかったことでした。

安倍総理財政均衡主義から逃れ、積極財政を
選択したことが正しかったことは、その年の
成長率(実質1.4%)に如実に表れています。

ところが一年も経ずして安倍総理は、
「経済成長と財政再建の二兎を追う」ことを掲げ、
積極財政の旗を降ろし、2014年4月の消費税増税に踏み切りました。

政界、財界、官界、学界、マスコミ界の
有識者と言われる人たちの大半が「増税すべし」
と唱えたことに影響されたのかもしれません。

その時点で初期アベノミクスは終わり、
財政再建、金融緩和、成長戦略から成る
アベノミクス第二章」へ転じたのです。

再びの財政均衡路線の選択です。

今年6月、その選択の誤りを実質的に表明することに
なったのが、消費税再増税の延期であったと思われます。

安倍総理の第一の躓き、誤算です。

ようやく増税と緊縮財政が経済成長と
両立しないことを認識したのではないでしょうか。

ところが安倍総理は、デフレ脱却を図るために
積極財政路線に復帰することはせず、リフレ派理論に頼りました。

下野していた時代に、安倍総理がリフレ派の
賛同者になったことはよく知られていますから、
自然な流れかもしれません。

リフレ派の論者たちの「量的緩和によって
インフレ期待を高めれば、実質金利を低下させられる。
それによってデフレギャップを解消できる。
その後は成長戦略の出番だ」との主張を
受け入れたのです(詳細は下記の第9章参照)。
https://www.amazon.co.jp/dp/4757224257

ここからアベノミクスは、金融緩和と成長戦略を
中心とする第三段階に至ったと言えます。

ところがリフレ派理論どおりに現実経済は動きませんでした。
日銀自身、9月の総括によってそれを認めました。
黒田総裁も金融政策だけでなく財政政策、
成長戦略の併用が必要だと主張するようになったのです。
安倍総理の選択はまた間違ってしまいました。第二の躓き、誤算です。

現在、多少は財政出動に対して以前より
前向きになったと思われますが、実際上、
アベノミクス新自由主義的な成長戦略だけになってしまいました。

第四段階です。

安倍総理は、成長戦略の中心はTPPであると言明し、
発効のための先導役としてTPP批准に邁進してきたわけです。

ほぼ掌中にしかけたところで、11月のトランプ旋風!

本年三度目の躓き、誤算です。

これからのアベノミクスはどうなるのでしょう。
2006年に誕生した小泉内閣後継の第一次安倍内閣では、
構造改革路線をより先鋭化した新自由主義的政策を模索しました。

今年も外国人労働者の受け入れ拡大につながる法律が成立しました。

現在は、TPPの挫折を振り払うかのように、
新たな成長戦略の目玉としてカジノ法案の成立を強行しようとしています。

賭博の合法化は、社会規範を揺さぶる大問題です。

ほんの一握りの人間の利益のために社会の破壊を
厭わないのが、新自由主義者の常套手段ですから、
それに沿った動きと思われます。

成長戦略との名称を付せば、何をやっても
許されるというものではありません。

安倍総理には、このコラムの執筆陣が主張している
経世済民思想にはやく気づいてほしいものです。

 

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