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脳科学者 中野信子さん連載5 日本に長寿企業が多いのはなぜか――脳科学から見た日本人【前編】 中野信子

2013年に帝国データバンクが発表したデータ(「長寿企業の実態調査(2013年)」)

によれば、日本に創業100年以上の長寿企業は2万6,144社あるという。
これは世界的に見ると際立って多い水準で、やや古いデータになるが
2008年5月に韓国銀行が発表した報告書(「日本企業の長寿要因および示唆点」)
によれば世界中の創業200年以上の企業5,586社のうち半分以上の3,146社が
日本に集中している。

一方、韓国には創業200年を超える企業はなく、創業100年以上の企業が斗山
(1896年)と東洋薬品工業(1897年)の2社、また中国では150年以上の歴史を持つ
老舗企業が5社のみである(1538年創業の漬物店「六必居」、1663年創業のハサミ
メーカー「張小泉」、漢方薬局「陳李済」と「同仁堂」、飲料「王老吉」)と
報告されている(ただし、中国は1949年に企業がすべて国有化されている)。

なぜ、日本に長寿企業が集中しているのだろうか。これまでの分析では、
植民地化を免れたこと、長期にわたる内戦がなかったこと、など様々な要因が
その理由として挙げられている。

が、植民地化されなかったことが要因であれば西欧諸国やタイなどの反例があり、
長期にわたる内戦がなかったというのも応仁の乱から戦国時代、近代では
戊辰戦争西南戦争などの歴史を考えればやや苦しい説明のように思われる。

もちろん、これらの要因がまったく寄与していないと主張するつもりはない。
しかし、ここには他に見落としがあるのではないかと考えるのに
十分な論理の隙がある。

長寿企業には、必ずと言っていいほど、その事業についての家訓や商道徳が
あるという。こうした規範を守ることを長らく日本人は「伝統を重んじる」
という言い方をし、美徳としてきた。一方で、近年ではこれを「非効率的な
ビジネスにつながる前近代的な迷妄」とする見方も増えた。

一体、どちらが正しいのだろうか? これを論じるのはまた別の機会を
待つことにして、ここでは、少なくとも企業体が長命であることには規範を
重んじる姿勢が大きく寄与するようである、という推測が可能だろう、
というにとどめておこう。

さて、日本の長寿企業文化を世界に伝えよう、と安易に結論付けることは
簡単だが、日本になぜ、規範を重んじる姿勢が育ったのか、そこまで分析して
紹介できるのでなければ単なる文化の押しつけであり、私たち自身の目には
「美しい伝統」と映ることも、極東の奇妙な人々の奇天烈な謎習慣、
と見なされて終わるだろう。

規範を重んじるという問題に焦点を当ててみると、ヒトの脳には個体差があり、
規範や前例を重んじることを快適に感じる脳を持った人と、それを不快に感じ、
自分の方式を見出してそれを遂行することに喜びを感じる脳を持つ人がいることが
ある実験からわかっている。

この違いは、どのようにして生じるのだろうか?

次回は、これらを解き明かすために行われた実験の紹介から、
日本人の多くが持つ脳の独特な性質と、その成立の過程について論じていこう。


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