「言論の自由を保証する」企業

1. 論長論短 No.251

言論の自由を保証する」企業
宋 文洲

パンフレットや来客室に掲げた企業理念というものは、だいたい痛くも痒くも
ない高邁スローガンに過ぎません。真面目に読んでいると心が私心と雑念で
充満している自分が急に小さくなり自信がなくなります。しかし、「社会に
貢献します」と掲げてきた企業が長く不正にチャレンジしていると思うと、
企業理念はもう少し中身のあるものにしたらどうかと思うのです。
たとえば「嘘付きは泥棒の始まり」などです。

最近、ある尊敬を申し上げている経営者のところによく行きますが、彼の会議室に
掲げた企業理念の第一カ条に「言論の自由を保証します」と書いてあります。
あまりにも珍しいからついつい見てしまい、そして考えてしまうのです。

企業を数十倍にも大きくして育ててきた著名な方なので正直、社長の前で幹部や
社員は何でも好きなことを自由に言える訳がありませんが、彼ほど自由に話せる
雰囲気を作る経営者は少ないと思うのです。

一度中国出張も同行しましたが、物知りでお喋り好きな上海の責任者の方と
移動中の車の中でずっと何かを話していました。しかもその内容は古典から
逸話まで殆ど仕事と関係がありませんでした。多くの企業では社長が折角
現地視察に来たので静かに「ご指導」や「ご指示」を伺うのがマナーです。
それを守らないとその場で怒られなくても以降の印象が悪くなるに決まっています。

この自由な雰囲気の中で働くと人間は前向きになるのです。特にトップが
立場の弱い人の自由を本気で守る姿勢はどれほど組織のモチベーションと
創造力を引き出すでしょうか。我々人間はお金も立場も名誉も、欲しいものが
多いのですが、究極なところはこれらのツールを手にすればより自由に
身を振ることが可能だから欲するのです。

企業理念に「言論の自由を保証します」と書くと、たぶんその経営者が社員への
呼びかけだけではなく、社長自分への警告でもあるように思えるのです。
嫌なことを言われても決してそれを妨げたり圧力をかけたり評価を落としたり
しないように自戒していると思うのです。

企業のみならず、社会というものは常に弱い立場の人が自由に発言できないように
なっているのです。自由に発言してもいいのですが、上司から冷遇された
サラリーマンは次第に上司に喜ばれることしか話さなくなります。自由に
発言していいですが、新聞社やテレビ局の方針に合わないコメンテーターは
自然に使われなくなります。自由に発言していいのですが、やっているうちに
お金がどんどん不自由になります。

自由は貴重なものなのです。多くの人は一つの自由ともう一つの自由を交換して
生きているのです。お金の自由と言論の自由はどちらがより大切かといえば、
殆どの人はお金の自由がより大切でしょう。もし、ある会社ではその言論の
自由を無条件に無料で手にすることができるならば、その会社はなかなか
世の中にない会社だと思いませんか。

その「言論の自由を保証します」という、憲法にも保証されていながら、
実現不可能なことを企業理念にしている経営者は素敵だと思いませんか。


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