郷に入っても郷に従えない  宋 文洲

論長論短 No.254

「すみません。ANAクラウンプラザホテルに行きたいのですが・・・。」

名古屋駅を出てタクシードライバーに行き先を告げながら私は不安でした。
秘書からもらったメモに書いてある行き先の名称の「ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋」は長すぎる上、ホテルなのか、ホテルの施設なのか、それとも地名なのかがよく分からなかったからです。

さすが地元のドライバーさんで、後半の「グランコート名古屋」を読む前に「分かりました。」の一言ですぐ車を発進してくださいました。

数分後、ドライバーさんが赤い煉瓦の建物の前に車を止めて「はい。ここです。」と言いました。ふとメーターを見ると料金は700円くらいでした。
「ごめんなさいね。こんなに近くて。」と言って降りました。

しかし、よく建物を見ると不安になりました。講演を頼まれたセミナーの会場は28階にあると言われましたが、明らかにこの建物は10階程度です。「ホテルに併設した施設だろうか?」と思いながら、フロントの方にメモを見せながら確かめると「ここではありません。金山のほうにあります。」

「ではここは何というのですか?」
「ここはクラウンホテルです。」

「金山はどこにあるだろうか」と思いながらメイン通りに出て別のタクシーを止めてメモを見せながら「金山にある、この長い名前の所に行きたいですが・・・。」と頼みました。

「あ、グランコートですね。」と言われました。「分かりませんが、金山にあってANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋といって28階以上ある高い建物です。」と、二度と間違うまいと私は必死でした。

間違いなく私は行きたいところに向かっていると確信を持つと、私はやっと二番目のドライバーさんに経緯を説明しました。すると彼は「我々はお客さんが今から行くホテルのことをグランコートと呼んでいます。前の人は勘違いしたのでしょう。」と解説してくれました。

正式名称を最後まで読まなかった私も悪いのですが、一応私ははっきりと「ANAクラウンプラザホテル」と言いました。地元では前半を言わず「グランコート」と呼ぶのに慣れたため、クラウンとホテルのキーワードを聞いて「クラウンホテル」だと思い込んでしまったのでしょう。

「今日の宋メールはいったい何を言っているのか?」ともう我慢の限界にきている方も多いと思いますが、ここまで詳しく説明しないと皆さんがこのことが示唆した物事の本質に気付き難いだろうと私は勝手に思っています。

長い期間にわたって外との人材交流が少ない企業では、内部の隠語や暗黙ルールが標準になってしまうのです。外の人が突然に入って元来の標準用語を使ってもかえって通じない現象はよくあります。同じ現象が地方都市にあるのです。

世の中ではよく「グローバルな視点が重要」など言われますが、外との人的交流がない限り無理です。外の人がたくさん入って来ないとどうしてもローカルの癖や暗黙ルールが普遍的ルールだと勘違いしてしまうのです。
「郷に入れば郷に従え」という発想は観光産業や外資誘致などのビジネスにおいては、単なる自己中心、顧客無視に過ぎません。

数年前のオリンパスの財務不正事件は外国人の社長がいなければ発覚していないでしょう。東芝の隠ぺい問題も先輩社長が後輩を社長に指名するマトリョーシカ人事を続けなければ最初から起きていないでしょう。
内部の人間が内部の論理に慣れてしまえばチャレンジも世界標準と全く無縁の隠語になってしまうのです。

保守と無知は環境の閉鎖性に由来するのです。「井の中の蛙」という諺がありますが、蛙に問題があるのではなく、井に閉ざされた環境が悪いと言っているのです。あの蛙は井の中で懸命に勉強し情報収集した結果を素直に言っているだけなのです。彼こそ被害者なのです。

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