新卒採用の制度疲労と弊害

1. 論長論短 No.213

新卒採用の制度疲労と弊害
宋 文洲

私はスーツ姿の群れをみると何となく暗くなります。特に似たような
リクルート・スーツを着ている姿には哀愁さえ感じます。ところで昨日、
東京の街で偶然にも紺色スーツ姿の若者の隊列を見ました。幼い顔の彼らは
皆嬉しそうな表情をして某テレビ局本社からどこかに移動する最中でした。

私が可哀そうだと思っても彼らはたぶん天にも昇った気分でしょう。
政治家と著名人が子供や親族を就職させるテレビ局はまさに日本の大学生の
憧れの的であり、最終目標にする人も多いはずです。それでも私は彼らを
可哀そうに思うのです。彼らの殆どは終身雇用にしがみつき、このままの
姿で一つの企業の中で人生を終えるつもりでしょう。

今年も、殆どの若者が憧れの所に就職できず、とりあえず第二や第三希望の
企業に就職しています。著名人の子供もいなければTVコマーシャルも打たない、
本社ビルもお洒落ではない中小企業です。転職や企業倒産を経験しながら、
彼らの中から未来の中小企業の社長が生まれ日本経済を支えてくれるのです。

新卒を大切に大量に採用し、社長まで育てる日本の新人制度は日本企業の
制度疲労の象徴です。採用する方も採用される方もある暗黙の約束があるのです。
それは終身雇用です。しかし、これは今からではなく昔から日本社会に
実在しなかったフィクションであり、若者のチャレンジ精神と経営者の
企業家精神を腐食してきました。

日本の株式会社の平均寿命は数年しかありません。90%以上の雇用は
平均年齢数年の中小企業が生み出していると思えば、終身雇用は単なる
戦後の虚構にすぎませんでした。ソフトブレーンを創業した時、私は
終身雇用と言いたくても言えませんでした。いつ潰れるか分からない会社が
言う言葉ではないですし、行くところのない社員達が集まっていたので
私も彼らを終身雇用したくもありませんでした。

だいたい規制や国策や公共事業に深くかかわるような企業ではない限り、
終身雇用を保証するのは無理です。それでも終身雇用が維持できるのは
正社員数を極端に抑え、契約社員派遣社員にアンフェアな労働条件を
押し付けているからです。

しかし、この同じ労働なのに報酬が倍も違う労働市場の不公平こそ見た目の
終身雇用を維持するためのカースト制度であり、社会の活性化を無くしています。
10年20年前に親族や友人の羨望の眼差しの中で就職した花形産業は、
新入社員が中年を迎え、体力の衰えを感じる頃に衰退期に入るのです。
転職したこともなく外の世界も知らないのにプライドだけは衰えない彼らは
まさに人生の虚無を噛みしめるのです。

現在、多くの日本企業では管理職が平社員よりも多いのです。これは紛れもなく
新卒を大量採用した結果です。そのため、日本企業では部長職からは
タイなどの発展途上国よりも年収が少ないのです。これは日系企業
グローバル人材市場で優秀な経営者や管理職を獲得できない理由でもあるのです。

日本企業がグローバル競争力を失ったのは技術でもなく製品でもなく、
グローバル人材の獲得に失敗しているからです。ぴかぴかの新人たちの前で
偉そうに企業文化と愛社精神を語る際、この制度自体の疲労と弊害も
頭の隅っこに入れていただければと思います。

P.S.
「読者」という中国の若者に最も読まれる、評判の良い文章だけを集める
文集に斎藤淳子さんの文章を見付けた時、びっくりしました。正直、
中国語でこんな人気のある文章をかける日本人を他に知りません。

その後、偶然にもその斎藤淳子さんと出会う機会がありました。彼女の
文章は本当に素晴らしいと思い、「宋メールに載せていいか」と
相談したところ、快諾してくださいました。
(嬉しいことに彼女も宋メールの読者です)

嫌中嫌韓のブームに乗って一儲けしようと考える中途半端な自称中国専門家
と違って斎藤淳子さんは中国人の旦那さんと米国で出逢って結婚し、
仕事関係で北京で生活し、グローバルな視野と中国への理解をもって文章を
書いています。

斎藤さんは日本の新聞などにも寄稿しています。本日の第二部では彼女が
読売新聞に寄稿した文章を紹介します。次回あたりから、彼女自身に
自己紹介などをいただいて載せたいと思います。


(終わり)

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