シリア軍事介入がもたらす中東大混乱(2/3)

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┃日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信 ┃ http://www.realist.jp
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├ 2013年11月12日 シリア軍事介入がもたらす中東大混乱(2/3)
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※「月刊日本」10月号に掲載されたおくやまさんのインタビュー記事全文を
  3回に渡ってご紹介しています。この分析は9月上旬においてのものです。


■どちらが勝っても反米政権が誕生する

── シリア攻撃に反対する意見としてはどのようなものがあるか。

奥山

リアリストと呼ばれる人たちはシリア攻撃に批判的だ。
たとえば、国防省のアドバイザーでもあるアメリカの戦略家、
エドワード・ルトワックは、
「体制側と反体制側のどちらが勝っても
アメリカにとって望ましくない結果が引き起こされる」と述べている。
ルトワックの議論をまとめると次のようになる。

「アサド側が勝利すれば、イランのシーア派
ヘズボラの権力と威光を認めることとなり、
スンニ派のアラブ諸国イスラエルにとっては直接的な脅威となる。
他方、反体制側が勝利すれば、アルカイダを含む原理主義グループたちが
強い力を持つことになる。彼らが反米的な政府を作ることはほぼ確実であり、
そうなれば国境を接するイスラエルも平穏ではいられない。

つまり、イランの支援するアサド政権の復権は、
中東におけるイランの権力と立場を高めることになるし、
原理主義者が支配している反体制側の勝利は、
アルカイダのテロの波を新たに発生させることになるのだ。

それゆえ、アメリカにとって望ましい結末は、
勝負のつかない引き分けである。

アメリカはこれを達成するために、
アサド側が勝ちそうになれば反体制側に武器を渡し、
反体制側が勝ちそうになれば武器の供給を止めればよい。

この戦略は、実はオバマ政権がこれまで採用してきた政策でもある。
オバマ大統領の慎重な姿勢を非難する人々は、
その対案を示すべきであろう。アメリカが全力で介入し、
アサド政権と原理主義者たちをどちらも倒せとでも言うのか」。
この議論はまさに、兵器の供給を武器として使う
オフショア・バランシング的なものと言えるだろう。

ルトワックは今回のシリア問題に限らず、
介入には総じて批判的な立場だ。
彼は、戦争が起こった時は当事者同士に
徹底的に戦争させるべきだと主張している。
そうすれば、いずれ互いに戦争が嫌になり、
これ以上殺し合うのはやめよう、
ということになるからだ。

ルトワックによると、ヨーロッパが現在のように安定しているのは、
徹底的に戦争を行って戦いの火種を絶やしたからであり、
他方アフリカ諸国が発展しないのは、諸外国の介入によって
争いの火種が残ってしまったからだという。
火種が残っている限り、いずれ再び戦争が起こってしまい、
いつまでたっても情勢は安定しない。

実際、イギリスとフランスは100年以上にわたって戦争を行ってきたし、
第一次世界大戦第二次世界大戦などでも凄惨な殺し合いを行った。
もしこの時に現在のようにNGOやユニセフなどが介入していれば、
戦いの火種が残ってしまい、
ヨーロッパも今頃は難民キャンプだらけだったに違いない、
というわけだ。

いささか乱暴な議論であり、日本では
とても大っぴらに主張することのできないようなものではあるが、
そこに一定の真実があることもまた事実だろう。

── 過激派が紛れ込んでいる以上、オバマ政権としても
   反体制側を手放しに擁護することはできないのではないか。

奥山
ニューヨーク・タイムズが先日、反体制側の武装グループが
政府軍兵士を処刑している映像を入手したとして、
同紙に銃殺直前の画像を掲載した。

アメリカのケリー国務長官は、反体制派の中で過激派は10%くらいで、
その他は穏健派だなどと主張しているが、こうした映像が流れてしまうと、
反体制側をこれまでのように支援していくことは難しくなるだろう。

── ルトワックの他には、リアリストの間ではどのような議論があるか。

奥山

イラク戦争の際、それを不必要な戦争だと
反対したスティーブン・ウォルトもまた、
シリア攻撃に反対している。彼の議論の特徴は、
アサド政権がどのような兵器を使用したかは、
軍事介入の是非を判断する上で問題にはならない、という点にある。

つまり、化学兵器を使おうがクラスター爆弾を使おうが、
人を殺したという点で違いはなく、それゆえアサド政権が
化学兵器を使用したから軍事介入すべきという議論は間違っており、
あくまでも国益に基づいて判断すべき、ということだ。
倫理観に左右されにくいリアリストならではの議論だと言えるだろう。

また、ウォルトによれば、そもそも化学兵器は、
使用の禁じられていない高性能爆薬よりも死傷率が低いことが多いという。
それゆえ、シリアが化学兵器を使用したことを批判している人たちが、
化学兵器よりも死傷率の高い爆弾を使用する
軍事介入に賛同しているのは、実に皮肉なことだと述べている。

(つづく)