続発する「医者殺し」に見る社会の病

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■ 続発する「医者殺し」に見る社会の病
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先月25日、中国浙江省温嶺市
第1人民医院で驚くべき殺人事件が起きた。
当医院の耳鼻咽喉(いんこう)科で手術を受けた患者の1人が
手術の効果に対する疑問から医院といざこざを起こし、
医者の1人を殺し、2人を負傷させた。

数日後、浙江省内の各医院から
数百人の医療関係者が温嶺市に駆けつけ
「医療暴力反対」の抗議活動を行い、
全国数百の医院からも声援する声が寄せられた。
1件の医者殺しに対し、全国の医療界が
それほど激しく反応したのには理由があった。
今、全国各地で、患者やその家族による
医者への暴力事件が多発しているからである。

たとえば温嶺事件が発生した10月中、下旬には、
下記のような「医療暴力事件」があちこちで起きている。

17日、上海中医大学付属病院の「重症監護室」で
患者が死亡した直後、医院の救急措置に不満を持った
親族7、8人が監護室を打ち壊し、
医院の全フロアを飛び回って乱暴を働いた。
21日、瀋陽医学院奉天医院で、
患者の男が自分の手術を執刀した医者を
ナイフで刺して重傷を負わせ、自分も飛び降り自殺した。

同じ21日、広州医科大学付属第2医院でも、
重症監護室で患者が死亡した後、
数人の医者が親族に殴打されて重傷を負った。
22日、湖北省黄岡市中心医院で、
眼科の若い女性医者が患者に殴られて負傷した。
27日、江西省南昌市第1医院で、
凶器を手にした男が女性看護師を人質に取り
医院に抗議する事件も起きた。

17日からわずか10日間で、
各地でかくのような凶悪な暴力事件が続発した。
普通の市民である患者やその親族がなぜ、
医者に対しそれほどの憎悪感を持っているのか。

これに関し、北京中米連合医院の陳中華院長は最近、
暴力事件多発の最大の原因が医院と医者の「医療腐敗」にあると指摘した。
腐敗する医院や医者の理不尽によって追い詰められて
暴力行為に及んだ患者やその親族にはむしろ同情すべきだと彼はいう。

陳氏曰(いわ)く、中国の多くの病院では今、
医者が手術する度に患者やその家族に法外な「袖の下」を強要したり、
増収のために患者に不必要な薬を
高く売りつけたりするような「医療腐敗」が横行している。
その結果、患者と家族は医者に対し普段から不信感をもっており、
患者の身に何かが起きれば、本人や親族の憤懣(ふんまん)は
医者と医院に向いてしまうのである。

自分自身が医院の経営者であり、
医者でもある陳氏がこう語るのだから、かなりの説得力があろう。
実際、中国の医療界の腐敗には目を覆うばかりのひどさがある。

たとえば今年8月、陝西省渭南市富平県の産婦人科医院で、
医師が「赤ちゃんに先天的な伝染病や障害がある」と母親や家族に告げ、
生まれたばかりの健康な赤ちゃんを人に売った事件が起きた。

9月には、北京市海淀区にある病院で、
患者が逆に医者から暴力を振るわれ、
医者・病院職員と患者家族との大乱闘が起きるような出来事もあった。

とにかく中国では今、医者や医院が
患者とその家族を食い物にする腐敗が広がる一方、
患者と家族の医者・医院に対する不信感と憎悪が高まり、
それが結局、人の命を救うための医院を暴力と殺人の場にしてしまった。

腐敗に手を染める医者、暴力に訴える患者、
どちらにしても、病んでいるのは「心」の方であろう。
医院での暴力事件の多発は、
この国全体がかかっている深刻な「社会病」の象徴なのである。

近代中国の大文豪・魯迅は若い頃医者を目指していたが、
中国人の最大の病気は「心の病」だと悟って、
それを治すための文学の道へと転身したという。

この国が今、もっとも必要とするのは、
やはり「魯迅」ではないだろうか。

( 石 平 )