日銀のガラパゴス経済学

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The Globe Now: 日銀のガラパゴス経済学

 なぜ世界孤高の「日銀流理論」に固執して、長期デフレを座視してきたのか?
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■1.「政権交代後、(GDPは)ネガティブからポジティブに」

 第2次安倍内閣で任命された黒田東彦・日銀新総裁のもとで「異次元の金融緩和」が実行されると、いままで国内を覆っていた停滞ムードが一変した。安倍首相自身が、最近の雑誌のインタビューでこう語っている。

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 今年1−3月のGDPは、前年同期比0.9%のプラス、年率換算で3.5%のプラスになりました。では昨年の民主党政権時代の7−9月はどうだったか。もうみんな忘れてしまいましたが(笑)、年率でマイナス3.5%です。繰り返しますが、マイナスだったのです。つまり政権交代後、ネガティブからポジティブに変わった。これはものすごく大きな変化でしょう。[1]
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 安倍首相の言う3.5%は事前予想で、実際の改定値はさらに4.1%と上方修正された。「予想よりも大きく伸びたのは、アベノミクス効果で個人消費が堅調に推移し、企業の輸出が想定以上に回復したからだ。」[2]

 倒産件数は前年同月比8.97%減で、5月としては過去20年間で2番目に少ない数字だった。「雇用環境」も7ヶ月連続で改善し、6年1ヶ月ぶりの高水準になった。

 株価や為替レートが一時の最高値から反落しているのを見て、一部のマスコミはアベノミクスを批判しようとするが、そもそも民主党野田内閣末期の昨年10月末の日経平均株価が9千円弱だったのが5月末で13千円超と40%以上も値上がりし、円レートも同期間で79円から100円へと円が20%も下がったのを見れば、まさに異次元の展開としか言いようがない。


■2.アベノミクスの成果を予言した書

『アメリカは日本経済の復活を知っている』とは、安倍内閣の官房参与としてブレーンを務めるアメリカ・イエール大学名誉教授・浜田宏一氏が昨年12月に出版した著書のタイトルである。

 浜田教授がこの本を書いている頃は、まだ昨年12月16日の総選挙前だった。自民党総裁となった安倍氏が日銀の政策について、国際電話で質問をしてきた時、「安倍先生の政見は、まったくもって正しいのです。自信をもって進んでください」と浜田教授は答えたという。[3,p4]

 その後の展開は、浜田教授の予言通りになった。『アメリカは日本経済の復活を知っている』とは、アメリカの経済学者や政治家は、アベノミクスが正しい政策であることを知っている、という意味である。浜田教授は「まえがき」ですばり、こう述べている。

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 結論からいおう。20年もの間デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来するものである。

 白川(JOG注: 日銀前)総裁は、アダム・スミスから数えても200年あまり、経済学の泰斗(たいと)たちが営々と築き上げてきた、いわば「水は高いところから低いところに流れる」といった普遍の法則を無視している。

世界孤高の「日銀流理論」を振りかざし、円高を招き、マネーの動きを阻害し、株安をつくり、失業や倒産を生み出している。年間3万人を超える自殺者も金融政策とまったく無関係ではない。

 ・・・本書で解説する理論は、なにも私一人だけが主張するものではない。日本を別にすればほとんど世界中の経済学者が納得して信じ、アメリカ、そして世界中の中央銀行が実際に実行しているものなのである。[3,p2]
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■3.リーマンショック震源地でない日本の方がなぜ落ち込み幅が大きいのか?

「世界孤高の日銀流理論」とは何か。それを端的に表しているのが、リーマン・ショック後の対応である。2008(平成20)年のリーマンショックで、日本の鉱工業生産指数は30%も落ち込んだ。ユーロ圏の落ち込みが15%程度、震源地のアメリカやイギリスは10%程度なのにである。その理由を浜田教授はこう説明する。

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 イギリス経済は、財政問題がいくらか残っているが、すでに景気回復を始めている。アメリカは為替レートをかなり低い水準に維持し、経済は、喘ぎながらも景気回復の坂を上りつつある。

日本は、引き締め政策のおかげで、実質為替レートが一時30パーセント近く上昇し、輸出入の競争力を直撃した。産業界は30パーセントの値上げを吸収する必要があり、その分は生産性の上昇かコスト(賃金)カットで相殺しなければならなかった。[1,p70]
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 たとえば、日本で原価100万円で車を作ってアメリカ市場に輸出する場合、2008年1月の円レートは107円だったので、原価は9千3百ドルとなり、1万ドルで売れば7百ドルの利益が得られた。

 しかし4年後の2012年1月では77円となり、100万円の原価はドルベースでは1万3千ドルとなってしまう。売値が1万ドルでは3千ドルもの赤字である。無理に原価を1万ドルに抑えようとすれば77万円、すなわち23%ものコストダウンが必要である。

 これでは社内でボーナスを削減したり、部品メーカーに値下げを要求しても追いつかない。売上は減り、人員削減を余儀なくされ、設備投資も減っていく。こうして円高により、国内経済は萎縮していく。これが「デフレに苦しむ日本の不況」である。


■4.リンゴ村農協の無策

 それでは、どうしてこんな円高が起きたのか。浜田教授は、簡単な例でこう説明する。

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 そもそも為替レートとは、一国の通貨(たとえば円)と他国の通貨(たとえば米ドル)との交換比率である。もし、財の市場を考えて、リンゴがミカンに対して割高になるとしたら、それはリンゴの供給が少ないからか、リンゴの需要が増えたからである。[3,p47]
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 この例を使って、もう少し説明しよう。今、リンゴ村とミカン村があるとする。それぞれの村では、リンゴとミカンを物々交換の通貨代わりに使っている。ある年、台風が直撃してリンゴ畑もミカン畑も被害を受け、極端な品薄になった。

 ミカン村の農協は、この時とばかりミカンを保管倉庫からどしどし出荷して、供給量の下支えをしたので、ミカンの運搬や小売りをする人々の生活もそれほど落ち込まなかった。

 一方、リンゴ村の農協は何もせず、わずかに採れた分だけを出荷した。リンゴの流通量が激減して、運搬、小売り業者も扱い高が大きく落ち込んでしまった。リンゴ村の村民も家計をさらに引き締め、村内でのリンゴ流通量はさらに減ってしまった。

 さらに両村では、リンゴとミカンを交換して、互いに供給しあっていたが、今までの交換比率がリンゴ1個とミカン1個だったのに、リンゴが品薄になったので、リンゴ1個と交換するには、ミカン2個が必要となった。こうなると両村ともリンゴよりもミカンを食べる人が増える。リンゴ村はますます景気が悪くなった。

 おおまかなたとえ話だが、リーマン・ショック後に日本経済が震源地のアメリカ経済よりも大きく落ち込んだのは、日銀がこのリンゴ村農協と同様に無策だったからだというのが、浜田教授の主張である。

 そして「世界孤高の日銀流理論」とは、リンゴの供給量はリンゴ村の経済にも、ミカンとの交換比率にも影響しない、と言って、景気対策は日銀の管轄外とするものだ。どうせ効かないならダメモトで大量供給してみてもいいじゃないか、と言うと、超インフレになるからダメ、という。

 超インフレになるというなら、その前に、デフレを脱却して、高度成長期のようなゆるやかなインフレの状態になる時点があるはずだが、それも無視している。このような矛盾を内包した日銀流理論が「世界孤高」となるのも当然だろう。


■5.「ひどい失策だ」

 実際に、リーマンショック以降、米国では大量にドルを刷って景気の下支えをしたのに、日銀は金融システムが安定しているので、金融政策を拡張する必要はなかった[3,p70]として、景気の落ち込みを傍観した。デール・ジョルゲンソン・ハーバード大学教授はアメリカ経済学会会長も務めた経済学者だが、こう述べている。

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 2008年の国際的な金融危機以降、円は対ドルの名目為替レートで1985年のプラザ合意前後に匹敵する勢いで上昇した。輸出や生産の落ち込みは、主要先進国の中で最も激しかった。

 率直に言って、日銀はこのことに対して重大な責任を負っている。・・・

 FRB連邦準備制度理事会、アメリカの中央銀行)、欧州中央銀行イングランド銀行(英中央銀行)は、2008-09年の金融危機の最中にバランスシート拡大の方向に(JOG注:通貨供給増大)大幅に舵を切っている。しかし、日銀は主要中銀(中央銀行)の中では唯一、そうした動きに同調しなかった。その結果が、円レートの急上昇である。[3,p115]
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 リーマン・ショック時に限らない。それ以前から日銀が通貨供給量を絞って円高・デフレ政策をとってきた事に対しても、欧米の経済学者は批判を浴びせかけている。

 ポール・クルーグマンノーベル経済学賞も受賞した現代アメリカを代表する経済学者だが、リーマン・ショック前のデフレ対策についても、こう日銀を批判している。

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 2005年から2007年にかけて、日銀が思い切ってインフレ率をプラスにすると約束すべきだった。それなのに金融引き締めを行ってしまった。・・・ひどい失策だ。[3,p120]
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「日銀のマネタリー・ポリシー(通貨政策)はプア(下手)だ」とは、元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏がプリンストン大学在学中に何度も聞かされた言葉だという。


■6.「責められるようなことは極力しない」という官僚的な発想

 弊誌278号「日本銀行 〜 現代の『関東軍』!?」[a]では、80年代後半のバブルの発生と崩壊、その後の長期不況が、日銀の金融政策にあったというドイツ人エコノミスト、リチャード・ヴェルナー氏の批判を紹介した。この批判は、その後のデフレ長期化とリーマンショック後の大不況も、同じく「プアな日銀の通貨政策」によるという浜田教授やアメリカのエコノミストたちの批判とも軌を一にしている。

 それにしても、日銀はなぜ欧米の主流経済学とはまったく違ったガラパゴス経済学とでも言うべき「日銀流理論」を信じているのだろうか? 浜田教授は、「責められるようなことは極力しない」という官僚的な発想が原因だと指摘する。

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 変えない、新しいことをしない、失敗しない、責められないようにする・・・そうした意識の積み重ねによって生まれた伝統、それが「日銀流議論」であり、日銀が、理論、事実、データによって、自分たちが間違っていることを(おそらく)知りながらも、そこから脱却できない理由だろう。
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 日銀法は「信用秩序の維持に資することを目的とする」と定めており、さらに「通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」としている。

 日銀が責任追及されるのは銀行がバタバタ倒産したり、狂乱物価となったりという事態であって、それさえなければ、リーマン・ショックで鉱工業生産が30%下がっても、デフレが長期化して自殺者が3万人を超えても、「信用秩序」が維持され、「物価が安定」している限りは、誰も日銀を責められない。

 欧米の中央銀行のように、通貨供給量を増やして、景気を下支えすることは、日銀本来の目的ではないと涼しい顔をしていられるのである。


■7.日銀の反日?!

 もう一つ日銀がガラパゴス経済学を信じている(あるいは、そのふりをしている)理由の仮説として、「反日団体」説がある。

 デフレと円高で日本企業の国際競争力が大きく削がれ、その分、中国や韓国の輸出が有利になった。多くの日本企業が中国や韓国に工場を建てて、国内は空洞化し、また貴重な技術が中韓に盗まれた。さらに、GDPが増えないため、防衛費も10年連続で削減を余儀なくされている。

 一部のマスコミでは愛国的な在日韓国人が親韓反日報道をしているという噂もあるが、同じ事が日銀でも起きているのだろうか。それは現時点では確かめる術はないが、結果的に過去の日銀のデフレ政策が中韓国益に大きく資したという事実は疑いない。

 世論が安倍内閣を支持し、その安倍内閣が日銀幹部を入れ替えて、ようやく中韓でなく、我が国のために日銀が動きだしたことは、民主主義国家としての正道に立ち戻った、ということである。

 しかし問題は、四半世紀前のバブル経済とその崩壊以降、なぜこんなガラパゴス状態を許していたのか、と言うことである。国立大学で国家から給料を貰いながら、日銀のガラパゴス経済学を座視するような学問的無為無策がなぜ見過ごされてきたのか。

 この点を究明するのが、浜田教授の著書のもう一つの読みどころなのだが、すでに紙数は尽きた。この問題に関しては、浜田教授の著書を直接ご覧いただきたい。そこには、日銀が我が国の経済学者たちをコントロールする恐るべき実態が明かされている。直接、参照いただきたい。

(文責:伊勢雅臣)

■リンク■

a. JOG(278) 日本銀行 〜 現代の「関東軍」!?
 日本銀行は、政府の意向にも従わずに、国民経済を自由に操る実権を握っている!?
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257enippon/jogbd_h15/jog278.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 安倍晋三(インタビュー)「拉致被害者を奪還する日本」、VOICE、H2507

2.産経新聞、H250611「指標堅調 窮地脱したか」

3.浜田宏一『アメリカは日本経済の復活を知っている』★★、講談社、H2412
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4062181517/japanontheg01-22/

■編集長・伊勢雅臣より

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