悪い情報にわざと接しないとどうなるのか

1.論長論短 No.192

   掩耳盗鈴
   宋 文洲

春秋戦国時代(紀元前722〜481)、范氏が晋国の貴族智伯によって滅ぼされました。ある泥棒が混乱に乗じて范氏の邸宅に入って何かを盗ろうとしましたが、巨大で綺麗な模様がついている青銅の鐘を見付けました。重くて持てないため、彼はそれを叩き割ることにしましたが、叩くたびに轟音が響きました。

泥棒は鐘に体をくっ付けて音を抑えようとしても音が収まりません。困り果てた彼は耳栓をしました。すると音が小さくなり、安心して叩き続けましたが、当然すぐ捕まることになりました。

この話は「呂氏春秋・自知」に書かれたものですが、その後「掩耳盗鈴」という成語となり、「悪い情報にわざと接しない」ことを表します。

安倍政権発足当時の2012年12月27日に麻生副総理は「株価が1万5千円にもなれば何となく気持ちが豊かになる」と述べ、継続的になるような政策を
打ち出す必要性を語り、日銀も2%のインフレ目標を立てました。

なかなか成長軌道に乗らない日本経済について、これまでにない方法を試すこと自体は賛成です。「何もしないで失敗するよりも、何かをして失敗したほうがまし。」経営者ならば、だいたいこんなマインドを持つものです。

しかし、企業を変えるには最低3年かかるものです。3年でできるならば立派な経営者です。もし3カ月で企業を変えるという人が現れたら間違いなくその人は詐欺でしょう。

お正月休みが終わると日経平均はどんどん上がり、3カ月余りで1万4千円に近付きました。企業でいえばまだ何の具体的な体質改善を始めていないのに、あれもやるこれもやる、というだけで株価が4割も上がるのですから、異常な状況です。

私は4月中に自分と関係の深い知人に強く株を売るように促しました。結果として4月末に処分を終えました。しかし、世間ではその逆でした。5月中旬になると大手新聞や著名経済学者が2万円、4万円の予想を出して話題になりました。

せめてツイッターのフォロワー達に危険を知らせたいと思って次のような呟きをしました(記録)。5月15日(2万円予想をみて):「相場は永遠に不可能だと思った瞬間に現実になる。予想は毒薬だ。」5月22日(暴落前日):「4月の東京のオフィスビル空室率は8%。昨年ピークの10%から下がったが、2011年末の5.1%より依然として高いまま。」「政治家達はインフレに戻ることと景気拡大に戻ることを同等とみなすことが多いが、国民はこの2つが異なることを理解しつつある。」

5月23日 7.3%暴落。5月24日(暴落翌日午前の反発をみて):「一旦相場を離れたい方にとって、反発した時はチャンス。」「1万5000円近辺で一度離れなさい。」5月27日(最後のお願いとして):「Sell in May.」

私は相場予想はできませんが、状況判断はできます。良い数字、良いニュースだけではなく、悪い数字と悪いニュースも積極的に取り込むからです。政治家とマスコミが一緒になって都合の良いニュースを探し求める時はだいたい「掩耳盗鈴」の時です。「掩耳盗鈴」が風刺しているのは鈴を盗む行為よりも、耳を塞ぐ行為です。

P.S.

私は日本でいろいろな良いことを学びましたが、悪い習慣も身につけました。私が外出する際の服はぜんぶ妻が用意してくれます。これは日本で身に付けた悪い習慣ですが、ファッションや流行にあまりにも疎い私を見ていられない妻の面子でもあります。

そんな私が島田さんと会った瞬間、爽やかな新風を感じました。自分より10歳も上のおじさんですが、オヤジ特有の雰囲気はまったくありません。

本来、経営者は世の中の流行やファッションを知らないことは大いなる欠点です。島田さんはそういう欠点を抱える経営者のよきパートナーであり、良きアドバイザーです。彼が手掛けてきた流行も多くお洒落テレビ番組のコメンテーターも多く務めてきました。どうぞ、しばしビジネスにおける彼のお洒落論をお楽しみください。

(終わり)

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2.トレンドジャーナリスト 流行仕掛け研究所代表 島田始さん新連載

          アイデアが会社を救う・その1「美意識」
                                  島田始

以前、大手新聞の15段全面に「経営者の横にアートディレクターを」という広告記事が載っていました。ご存知のようにアメリカの企業の多くは実際に、アートディレクターやデザイナーをおいているようです。故スティーブ・ジョブズ氏も横に複数の人をおいていたといいます。

過去、19世紀の蒸気機関に代表される産業革命から今日のIT革命にいたるまで、何回か訪れた産業革命ですが、産業革命が起きると必ず、衣食住遊のライフスタイルが変わる生活革命と、それに伴ってデザイン革命が起きています。アール・ヌーボーアール・デコも、センチュリーモダンもサイケデリックもその時々の産業革命によって生まれたと考えていいでしょう。

スティーブ・ジョブズ氏も「よいデザインとは、どう見えるかではなく、どう機能するかである」と名言を遺しています。機能性に応えるのがデザインの大きな役割だからこそ、産業革命、生活革命が起きると、デザイン革命も同時に進行していくのでしょう。

第一次産品と言われる農作物、水産物の加工品の数々を、デザインの力で
大幅に売り上げアップに導いた高知市在住のデザイナー梅原真さんの話題は、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも特集していたので、
ご存知の方も多いと思います。ライフスタイルが刻々と変わる今日、
「商品と消費者の架け橋」になるのがデザイナーの仕事なのです。

では、経営者、ビジネスマンはアートディレクターやデザイナーを単に横に置けばよいのでしょうか。そうした部署をつくればよいのでしょうか。
パリのルーブル美術館にガラスのピラミッドの入り口を造った時のことを
思い出してください。中国系アメリカ人の建築家を登用し、完成は1989年ですが、ガラスのピラミッド造りを推進したのはミッテラン大統領とジャック・ラング文化大臣でした。「ルネッサンス様式の宮殿の中庭にガラスのピラミッドとは」と、世界中から非難を浴びたにもかかわらず、二人の信念は揺らぎませんでした。

その考えは、「現代人が15世紀の様式を真似て造っても、後世の人は、
20世紀の人のことを真似が上手でもオリジナリティがない人たちと思うはず」というものです。さすがですね。しかも、「何を造ってもいいわけではない」というのが二人の頭の中にありました。

今パリを訪れるすべての人が賞賛するガラスのピラミッド。その美しさと調和は20世紀人の誇りです。つまり、時の大統領と文化相のように、経営者、ビジネスマンは美意識が必要となります。
 
そのいい例がJR九州です。宮崎県の日南線に「海幸山幸」という観光列車が走っています。09年10月の運行開始以来、未だに予約の取れない人気特急です。世界的なデザイナー水戸岡鋭治さんのデザインです。水戸岡さんは3つのプランを提案しました。担当の常務取締役は、一番費用のかかるプランは到底無理だと考え、残り2案を当時の石原進社長(現会長)に持って行ったところ、石原さんは「今回は水戸岡さんも手を抜いたね。」とひと言。あわてて取って返しもう1案を見せたところ、「これです。これしかない。」
 
内装、外観に飫肥杉を使い、費用がかかり、メインテナンスにも手間がかかる案でしたが、結果的には、取材が殺到し宣伝費は大幅に少なくて済み、リニューアルの必要もなく、トータルでかなりの経費削減になったということです。経営者、ビジネスマンの美意識、デザイナーの存在が企業を救う時代がきていますね。


◆島田始『俺たちはアイデアひとつで未来を変えていく。』(アスコム刊)
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◆島田始プロフィール、講演のお問い合わせ等
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(終わり)