<読みトク!経済>月給はなぜ上がりにくいの?

 ◇固定費増避けベア渋る 好業績、ボーナスで還元

 なるほドリーマン君 大手自動車メーカーのボーナス(一時金(いちじきん))が増えるみたいだね。

 記者 この春の賃金交渉(ちんぎんこうしょう)で、大手自動車メーカーの多くは労働組合(ろうどうくみあい)の要求に「満額回答(まんがくかいとう)」しました。トヨタ自動車の場合、2008年のリーマン・ショック以降では、最高水準となる前年実績比24万円増の年間205万円(組合員平均)のボーナスが支給されます。円安などで業績が上向いているためです。自動車以外の企業も業績が改善していることから、みずほ証券は「民間企業のこの夏のボーナスは3年ぶりに増え、平均で前年同期比1・6%増の36万4000円となる」と予想しています。

 Q 賃金は何年も下がってきた印象だけど。

 A 国税庁の統計によると、民間企業のボーナスを含む年収(ねんしゅう)は1997年の467万3000円をピークに下落しています。2011年は409万円でした。月々もらう給料や手当の合計は7%減の349万7000円だったのに対し、ボーナスは34%減の59万3000円でした。景気低迷で給料が抑えられ、ボーナスもカットされました。給料が低い非正規労働者(ひせいきろうどうしゃ)が増えたことも、全体を押し下げてきました。

 Q 賃金の仕組みを詳しく教えて。

 A 年収は、月給とボーナスの合計です。月給は、基本給(きほんきゅう)や職能給(しょくのうきゅう)などで構成される基準内賃金(きじゅんないちんぎん)と残業代(ざんぎょうだい)などの基準外賃金からなります。ボーナスは夏と冬の年2回支給されるのが一般的です。

 大企業の多くは、定められた賃金表(ちんぎんひょう)に基づいて月給を支給します。賃金表は「入社1年目20万円、2年目20万5000円、3年目21万円」などと定めています。年齢や勤続年数に応じ年1回、賃金が上昇(定期昇給(ていきしょうきゅう))します。これに対して、賃金表の底上げを図るのは「ベースアップ」(ベア)です。先ほどの賃金表を「1年目20万1000円、2年目20万6000円、3年目21万1000円」といった形で書き換えることをいいます。春の賃金交渉では、デフレ不況が長く続いてきたことを反映して、労組側がベアを要求しないケースも多く見られます。今回も自動車などボーナスを満額回答した企業はありましたが、ベアを実施した企業はセブン&アイ・ホールディングスなど一部の企業に限られています。

 Q ベアを実現するのは難しいの?

 A 定期昇給の場合、個人の賃金は徐々に上がっていきますが、従業員の年齢構成が変わらないなら、賃金の総額は変わりません。一方、ベアは賃金総額が上がります。ベアを実施すると残業代、ボーナス、退職金(たいしょくきん)にも反映されるので、企業にとっての負担は重くなります。業績にかかわらず、固定的にかかる費用(固定費(こていひ))が増えることになります。業績が悪くなっても支払える企業体力がなければ、ベアは厳しいのです。

 一方、ボーナスはその時々の業績に連動して支払われる変動費(へんどうひ)という意味合いが強いのです。今年増えても、来年は減るかもしれません。もっとも業績悪化を恐れるあまり、企業が必要以上にお金をため込み、ベアを渋っているのではないかとの指摘もあります。

 Q ボーナスは増えるけど、月給は上がらないんだね。

 A 株式相場活況で業績が急回復している大和証券グループ本社の例をみてみましょう。同社の決算資料によると13年1〜3月期分の賞与(夏のボーナス)の総額は140億円で、前年の同じ時期の2・5倍です。一方、固定費としての人件費(じんけんひ)は282億円で、前年同期と変わっていません。業績が改善したからといって、すぐに上昇しないのが人件費なのです。

 Q 政府が賃金を上げるように財界に求めたね。

 A 賃金抑制が消費を抑え、デフレの一因になっているので、政府はため込んだお金をはき出させてデフレを解消し、企業の業績も上向かせようとしているのです。ただ、企業はボーナスを上げても、月給を増やすことには慎重です。

 日銀は「物価上昇率2%」を目指して、金融緩和を行っています。毎年モノの値段が2%ずつ上がるなら、賃金も2%ずつ上昇しないと生活水準を維持できません。毎年3〜4%の賃金上昇がないと、生活が豊かになったと感じることはできないかもしれません。